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Novel 
「そろそろ、始めようか。」
 クスッと笑みを漏らし、彰彦が言うと、少し手を挙げてフロアスタッフを呼んだ。
 そのあとの食事会は、わけがわからないままに、和やかに進んだ。
 食べ終わった後は、家族の初めての対面で、子供達が疲れているだろう。という親同士の一方的な言い分で、お開きとなった。
 帰りの電車で、まだまだ夢心地だった柚菜に、これまた上機嫌の母が、
「初めはどうなることかと思ったわよ。」
 と、肩を叩いてくる。そこで、柚菜はハッとなった。もう彰彦達から離れているので、話をしてもいいだろう。
「お母さん。野乃村さんって、パパにどこか似てない?」
 と、もちかけてみると、母は、びっくりした顔をして後ろずさる。
 そして、しみじみといった風情で、
「柚菜!…パパには会ったことないのに、そう思ったんだ。」
 と、遠い目をするのだ。
「見た目とキャリアは全く違うけど、彰彦さんにはパパと似た所があるわ。そう・・。同じような空気を持って…。」
 つぶやき、母は何か思い当たったようで、いきなり柚菜に向き直った。
「ひょっとして柚菜。それでトイレいったの?びっくりして?」
 言いながら、母の顔が輝いてゆく。
「そうよ。」
 と、柚菜が答えるか答えないうちに、母は小躍りして柚菜に抱きついてきた。
「ちょっと・・。お母さん。」
 周囲の目がある・・。と、面食らう柚菜にお構いなしに、
「ゆずぅー。そうでしょう!あんたも私と同じこと思ってくれたんだね。お母さん、うれしいわ。」
 と、母が喜びの感情を、ぶつけてくるのだ。柚菜も気がついたら、抱きつく母に腕を回して力を込めていた。
「初めて会ったとき、パパだと思ったわ。そうだとあらかじめ言ってくれてたら、あんなにも混乱しなかったのに!」
 そう言って、二人で盛り上がり、ひとしきり高まる感情を共有してから、母が柚菜の問いに答えてくる。
「…。ごめんねゆず。あんたまで、そういう風に感じるなんて、思っても見なかったから、言わなかったのよ。
 パパに似ているなんて言ったら、逆に妄想だとか、何だとか、ケチ付けられると思っていたから…。でも、ゆず。あんたパパに逢った事ないじゃないの。」
 最後の方は、裏返った声になる母に
「確かに逢ったことなかったけれど、イヤ程パパの話を聞いて、育ってきてるんだよ。パパの雰囲気とか、声の感じとか、私の中ではしっかりと入っているんだから。」
 柚菜が訴えかけると、母は表情を和らげ、
「そうね。あんたの中のパパ像は、間違っていないわ。いえ、正確には、私の中にある“パパの思い出“は、しっかり娘の中にも受け継がれていたってわけね。…でも、思いもしなかったわぁ。」
 と、変に冷静な分析をして、うなずくのだった。そして、にこやかな笑みを浮かべ、
「それじゃあ、再婚には賛成よね。」
 と、勝手に決め付ける母に柚菜は、この時何も、言い返す事ができなかった。
 言い返すどころか、柚菜のほうも、パパの面影を持つ野乃村彰彦に、期待ばかりが先にたち、いいも悪いも言える状態ではないのは、一緒だったのだ。
「野乃村さん側の隆仁くんも、感じのいい子よね。あの子も賛成してくれるかな?」
 夢見る表情で母が話すのを、
「あんまり、意見言うような、感じじゃないように思うけど。」
 と、柚菜が答える。母は少女のように指を合わせ、
「男の子もいいわね。」
 と、車窓の景色を見てつぶやくのだ。
「また生めばいいじゃない。」
 と、思わず言ってしまった柚菜に、母は頬を赤らめた。
「やだもう。ゆず。でも生まれたら、育てるのを協力してね。」
 クスクス笑う二人には、幸せの未来しか、映っていなかった。


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              白石かなな