白い家
【
かなしいゆめのあと
】
The theme of this story is moral harassment
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Novel <第1章>
再婚と同時に、相手方は、柚菜の高校進学の学費までもの面倒を見ようとしている。
(お母さんの彼ってお金持ち?)
その時くらいは、柚菜は自分の目がお金のマークになってしまった。
「……・受けてみないと分からないけれど、私が受けようと思っている公立よりかは、ちょっとランク落ちるかも知んないから、挑戦する価値あるかもしんない。」
心にやましい物があると、人間声が小さくなるものだ。柚菜がボソボソ答えるのを
「そう!受けてみる気ある?彰彦さんの息子さんが、そこに付属の幼稚園から通ってるらしいのよ。」
小躍りしかねない母の言葉に、
(えっ?)
と、頭の隅に引っかかるものを感じる。
(ああ・・。相手にも息子がいるんだ・・。)
と、妙に冷めてしまった自分に気づく。相手の息子にちょっとした劣等感。彼は幼い頃から、満ち足りた生活をしているのだろう。
「わかんないわよ。あそこ、付属幼稚園から入るとエスカレーター式だけど、外から入るのは、大変らしいんだから。」
「大丈夫よ。柚菜なら・・。挑戦してくれるんだったら、彰彦さんにも言っておくわ。兄妹二人で、同じ高校に入ってくれたら、お母さんだって鼻が高いもの。」
すっかり、私学進学に大乗気になってしまっている母に柚菜は
(相手の子供は一人ね・・。)
と、推測する。
(お母さん。再婚ノリノリだけど…やっていけるのかしら。)
唐突に不安になった。
再婚する事によって、今までの生活が、ガラリと変わってしまうのに、ちょっとした恐怖を感じた。
今まで、再婚に結びつくまでの、付き合いになる人がいなかったのもある。
男と女の関係になるのに、時間がかからなくとも、母には、夫になるための条件があるのを、柚菜だって知っていた。
愛だの恋だのに、振り回されない母は、柚菜にとって尊敬に値するとまで思っていたのだ。
そんな母のお眼鏡にかなった人ならば、信用がおけるだろう。とは思う。
(まぁ。会ってみないとわかんないわね。)
もし、柚菜がどうしても相手の事が気にいらなければ、母は再婚話を諦めてくれるだろう。と、その時は深く考えなかったのだった。
それから、柚菜は中学三年の春を迎えたある日、一方的に母から来週に、あの『野々村彰彦さんと食事会をする事になった。新しい服を新調するので、二人で出かける。』という話をきくのである。
(とうとう来たか…。)
そう思ってサッと緊張が走り、そうこうしているうちに当日になる。
いざ出かけてみると、日頃、”ブランド名”のついたショップなどで、服を買う事のなかった柚菜は、母が何気なく手に取ったスーツの値段を見て、目を見張った。
「ちょっと高すぎない?」
言う柚菜の言葉を、母は耳にも入れない。自分の分は、あらかじめ決めておいたらしい。さっさと決めると、店を変えた。
そして今度は柚菜のワンピースを、次々と手にとっては、体にあててゆく。
そのどれもが、淡い色の無難なスタイル、柚菜はそのうち飽きてきて、
「どれも一緒じゃん。もうどれでもいいわ。」
と、投げやりな視線をあちこちに向けるようになった。それでも母には、何かしらイメージがあるらしく。これでもない。あれでもない。と、考え込んでいる。
「柚菜らしい。優しい感じが出るのはこっちなんだけどなあ。でもこっちの方が安いのよねえ・・。」
最後には、二着になった同じようなワンピースを持って悩んでいる。相手に柚菜がどう見えるのかも、母には重要な事らしい。
「こっちの安い方でいいじゃない。」
柚菜の言葉に、母はキッとなって
「値段の問題じゃないでしょう。」
と言った本人が、さっき値段の事を言っていたのにである。
「でも私、こんなダサいタイプのワンピース。その食事会以外着ないよ。この服一着で、他の服何着買えるのよ。」
柚菜の言葉が、母の決心を固めさせた。
「値段は、やっぱりそれ相応のものなのよ。生地からして違うんだから。…
こっちにするわ。」
母は高い方のワンピースを手にとって言った。
「・・・今月からは節約よ。」
店員に商品を渡し、ため息をついて言う母に、
「中身が変わらないのに、そんなに見栄張ってどうするのよ。」
と珍しく柚菜は、腹が立って答えた。
「もう帰ろう。食事代だって無駄だわ。」
母との外食を楽しみにしていた柚菜だったが、この洋服2着を買ってからでは、食事をする気も失せた。ぷいっと、その場を離れる柚菜に、
「あぁ。ゆず、待ってよ。」
あわてて清算をすませて追ってくる母を、無視して帰るのだった。
たかが食事会一回のために、これからの節約生活を考えるとうんざりした。
結婚を考えているならば、(着飾る自分を見せてどうするのよ。)と、柚菜には思えたのだ。
しかし、家に帰ってから柚菜に気を使い、いろいろ話しかけてくる母を見ているうちに、なんだか彼女のことが、憐れに思えてきたのだった。
相手は経済的にも豊かな部類に入るらしい事は、何となく子供の学校から感じれる事だった。
それに対して柚菜にも母自身だって、負い目を感じないようにと、せめて見た目くらいは繕うとしたのだろう。それに何となく気が付いた柚菜は
「このワンピース。あと5回は着ないと元はとれないわね。」
と、さりげなく話しかけてみると、母は心底嬉しそうな顔をして、
「柚菜の年になれば、ああゆう服は一着はもっていなきゃ。」
と答えてきたのだった。「今日の夕飯何食べたい?」と、いつも通りに話しかけてくる母に、思わず柚菜は
(食事会がなかったら買うつもりは、なかったくせに。)
と心の中でつぶやくが、言葉には出さない。親は時として、都合のいいことを言ってくるものなのだ。それを、まともに言い返していたら、言い合いになるのは目に見えてくる。
「何でもいいわよ。カレーの具材。冷蔵庫に入っていたんじゃない?」
(私って本当いい子ちゃんだわ。)
母に代わって夕飯を作る事などよくある柚菜は、冷蔵庫の中味だって把握している。
学校帰りに買い物まで済ませて帰ってくる柚菜は、母にとって、とても助かるパートナーのはずだ。
柚菜は心のなかで、そうほくそえんで
「じゃあ。カレーでいいわね。」
と、いそいそ支度にかかる母を尻目に横になった。カレーが出来上がるまでは、一時間少々かかる。それまで柚菜は見てもいないのに、付いていたテレビの音を、聞きながらウトウトとし始めるのだった。
母の調理の音を聞きながら午睡に入る。柚菜にとっては至福のひと時だった。
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