白い家
【
かなしいゆめのあと
】
The theme of this story is moral harassment
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それから、帰ってきた母に起こされるまで熟睡してしまった柚菜は、あわてて下に降りるのだった。
ダイニングテーブルに、例のごとくすばらしい料理が並んでいる。
(門田さんってすごい・・。)
あっけにとられる柚菜に、すでに席に付いていた彰彦が、
「お母さんが無事届けてくれたよ。婚姻届。」
と、ワイン片手に言ってくるのだ。柚菜は、ハッとなる。上機嫌の彰彦を見ていると、仕事の方もひと段落したようだ。
柚菜はそこで、かねてから用意していた言葉を述べた。
「おめでとうございます。お父さん。お母さん!。」
柚菜の言葉に、他の三人もワ〜と盛り上がる。
「これで僕達は家族だね。」
隆仁の言葉に
「おとうさん!おかあさん!」
彰彦は自分自身と、母を指差して微笑む。
そうなのだ。
(これからは、彰彦さんは、お父さんなのよ。)
「ゆず。そんな所で突っ立っていないで、早く席につきなさい。」
母にうながされて、柚菜は頷くと開いた席に座る。
「あれ?門田さんは?」
彼女の席は用意されてはいないのに気付き、声をかけると、
「私はここにいますよ。」
と、キッチンからワゴンを押しながら、姿を現す。
今日のメニューは、引越しのお祝いメニューと思いたい。
チキンを一匹丸ごと使った丸焼きに、いろんな色の豆が入った野菜いっぱいのサラダに、さけとブロッコリーのキッシュ。ワゴンの上には、出来立てのパエリヤが湯気をあげている。陶器の中のスープの中身は、何だろう。と、期待を持たされた。
「旦那さま。これでよろしいでしょうか?」
門田さんが、問いかけると、父は、
「ええ。充分です。今日は助かりました。明日からもよろしくお願いします。」
と、答えると、彼女は一礼し、
「かしこまりました。」
と言うと、スーと、姿を消してしまうのだった。
門田さんがいなくなると、母が明らかに肩の力を抜いた溜め息をもらす。
「さあ。冷めないうちに食べよう。まずは乾杯かな?」
父は、くるっと辺りを見回すと、隆仁がいち早くそれを察して、母には食前のワイン。
柚菜にはジュースを入れる。
なんとなく緊迫した雰囲気が流れるが、みながグラスを手に取るのを合図に、
「かんぱーい。」
と、かけ声をあげる頃には、そんな雰囲気など、どこに行ったとばかりに、新しく家族になった四人は、一日の失った体力を戻そうと、食べるのに夢中になるのだった。
食事が終わると、お皿の後片付けを母と柚菜が受け持ち、父は明日の旅行の準備があると言って、早速二階へ上がってゆく。
隆仁も、いつの間にか自分の部屋に戻ってしまったようだ。
「お母さん。幸せ?」
食器を拭いていた母に、何気なく問いかけると、母は極上の笑みを浮かべた。
「もちろん。これで、私達幸せになれるわよ。これまでの分を取り戻さなくっちゃ。」
というのである。柚菜はその言葉に、ひっかかるものを感じた。
(私たち、今まで幸せじゃなかったの?)
と、思わず問い詰めそうになったほどだ。柚菜は、自分の事を不幸だとは、思ったことがなかったからである。
経済的には辛くとも、あのままずっと二人で暮らしても、良かったくらいに…。
けれど、母は柚菜との生活に満足していなかったのだろうか。
柚菜はその時、恐ろしくて聞くに聞けなかった。
もし、柚菜との生活を苦と感じていたのだと、はっきり言葉に出されたら、柚菜は立ち直れそうになかったからだった。
なんとなくそれ以上話すきっかけを失くして、二人は沈黙したまま後片付けをしていたのだが、有頂天になっている母は、柚菜の心境の変化に気が付くはずはない。
用事が終わると、
「私も自分の部屋で、することあるから。」
と、言う柚菜に、母はニッコリ笑って
「後片付けありがとうねえ。」
と、返事をするのだった。
柚菜はソサクサと、自分の部屋に戻ってゆく。
部屋に戻ってぼんやりしていると、ドアをノックする音がして隆仁が顔を出した。
ベットの上で、むほうびに横になっていたせいで、びっくりして跳ね起きる柚菜に
「お風呂どうする?お父さんも、お母さんもまだ支度で忙しいみたいなんだ。僕はもう入ったんだけれど。」
と聞いてくるのだった。
「…そうね。私も入るわ。ありがとう。」
柚菜が答えると、隆仁は薄い笑みを浮かべて頷き、ドアを閉める。
「あぁ、びっくりしたあ。」
隆仁が姿を消すと、ジッとしていた柚菜は、ハアとため息をついてつぶやくのだった。
今までは、家族が母だけだったので、こんな1シーンはあるはずもなく、
(これからは、隆仁とも暮らしてゆくのね。)
と、今さらながらに実感するのだった。
「さあ。お風呂にはいろう。」
自ら、言い聞かせる感じで、体を起こすと、下着と着替えなど、一通りまだダンボールに入っているので、出してゆく。
母から聞いたのだけれど、この家では、それぞれ自分の持ち物は、自分の部屋に収納するのだそうだ。
(便利なようで、便利じゃないような…。)
二人で暮らしていた時は、柚菜と母の服は、一緒のタンスにいれてあったし、下着などは脱衣所にボックスを置いて収納していたのだ。
「家族になるって事は、そうゆう事なのよね。」
自分のやり方ばかりを押し通していては、やってゆけないだろう。
そんな取り留めないことを考えながら、一通りそろえると、柚菜は部屋を後にする。
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