白い家
【 かなしいゆめのあと 】
The theme of this story is moral harassment
MAIN
Novel
浴室は、階段を下りたすぐ近くにあり、お風呂の中は、まだ柚菜は見たことがなかった。
(ちょっと,楽しみー。)
そう心の中でつぶやき、階段を下りると、脱衣所に入ってゆく。
脱衣所は、洗濯機も置いてあって、洗濯かごに今日着ていた服をすべて入れ、裸になった柚菜は、バスルームの扉を恐る恐る開けるのだった。
「やっぱり!」
思わず声を上げずにはいられない。
バスルームは、浴槽から洗い場から、純白のタイル張りで覆われていた。広めにとられた浴槽には、なみなみと、湯がはってあって、淡い照明の光を浴びて輝いている。
滑らかな曲線を描く、金色の蛇口と、同じ色のシャワーヘッド。
洗い場には、金の縁取りをしてある鏡が、中に入り、目を輝かせて立ちつくす柚菜の姿を、映し出していた。
「この家は、白い色が好きなのよねえ。」
このバスルームのインテリアも、以前とさほど変わっていないだろう事を思わせる。
(これは、お母さんの趣味じゃないもの。)
それだけは、確信をもって言える。
柚菜は心の中でつぶやいた。
母は、意外にも機能一点張りの人なので、柔らかな曲線を描く蛇口や、いかにも手入れがしにくそうな白一色のタイル張りの浴槽を、選ぶなんて思えないからだった。
もし母が選ぶとすれば、白は絶対選ばないだろう。汚れの目立ちにくい、せめてクリーム色か、グレー色を選ぶはず。
とはいえ、浴槽に体を沈めて、白と金のみのバスルームを見ていると、センスの良さは認めることはできた。柚菜が暮らしていた日常とはかけ離れている内装なので、まるで旅行に行った時のように、気分が良くなってくる。
淡い光を反射させる水面に顔を近づけると、ほのかにバラの香りが鼻をくすぐるので、さらに非日常な感覚に、浸らせてくれた。
「水は透明なのだけど、入浴剤か何か入れてるのかなあ。」
さすがにここまで庭の花の香りは、漂ってこないだろう。
しばらく柚菜は、お湯の中でくつろぎ、プカプカ浮きながら気分よくバスタイムをすごしていると、さすがに熱くなってくる。
(そろそろ体を洗おう。)
そう思って柚菜は浴槽から出て、髪を洗い出すのだった。
後は湯あたりしそうなので、あわてて体を洗い、シャワーで洗い流すと、脱衣所で服を着る。
何もかもこの家ですることが初体験なので、する事が遅くなるのだが、ドライヤーで髪を乾かし、自分の部屋に戻ると、午後9時半くらいにはなっていた。
この部屋にはテレビはない。後片付けをするには遅すぎる。
(もう寝よう。)
柚菜はそう判断すると、ベットに横になった。冷房がきいた部屋で、たっぷりとした布団をかぶって眠る。
とても贅沢な時間に思えるのだった。
またたくまに眠りにおちいり、ハタと目が覚め時間をみると、午前2時40分頃をさしていた。
(ちょっと早く寝すぎたかなあ。)
思ってもう一度寝ようとするのだが、眠るモードに入ってゆかない。仕方なしに、柚菜は部屋を出てトイレで用をたし、さらにお茶でも飲もうと一階に降りる。
みんな眠っているだろうと思っていたのに、先客がいた。
リビングの明かりが付いていて、誰だろうと覗いて見ると、彰彦・・父だ。
「起きてたんですか?」
無視するわけにもいかず、柚菜が冷蔵庫からお茶をだし、コップに注ぎながら問いかけると、なぜか彼は物思いにふけっていたみたいだった。柚菜の声にびっくりして軽く仰け反ると、我に返ったように、目をパチクリさせて、柚菜を見た。
「あぁ。柚菜ちゃん。目が覚めたのかい?」
まるで、トリップしていた感じだ。
「はい。早く寝すぎて…。」
柚菜が答えると、父はうっすら笑顔でかえす。
その雰囲気は、昼間に見た父とは違うのだ。
どこかはかなげで、寂しさが表に出ている感じがして、柚菜は心を打たれた。
コップを持って立ちつくす柚菜に、
「こっちにおいで。」
と、手招きする父に、引き寄せられるようにして、柚菜はソファに座ったのだった。
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白石かなな