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眠れなくても、時間がたつと朝がくるもので、だるい体のまま柚菜はベットから這い出し、カーテンをあけると、外は快晴である。
 朝からムッとするほどの熱気があり、今日の暑さが半端なのもではないのを、日差しが示してくれていた。
 服を着替えて下に降り、洗面台で顔を洗い、気分だけはさっぱりさせて、リビングに入ると、すでにみんなは席についている。
「柚菜。ちょうどよかった。遅いから呼びに行こうと思っていた所なのよ。」
「おはようごさいます。」
 柚菜が、母の言葉をさえぎるように言うと、
「おはよう。」
 と、父と隆仁が口々に返してくる。
 今朝の父は、いつもの父に戻っている。
 朝日を浴びて、にこやかに笑う父を見ていると、昨晩の事は、夢だったのではないかと思えるほどだが、よく見ると、目の下に隈が出来ているので、事実だったのだろうと思う。
 しかし表情は明るく。幸せな夫そのものだ。柚菜は少し戸惑うものの、逆にホッとするものを感じるのだった。
 キッチンを覗いたところ、門田さんの姿はまだない。朝食は母が作ったようだ。
 朝から新婚旅行に出かけるので、母は満足に座って食べる余裕がないらしい。
「飛行機の時間、間に合うかしら。」
 と、一人あせっている姿がほほ笑ましい。
 朝食は、簡単なトーストとハムエッグとコーヒーで、ほとんど眠れなかった柚菜には多いほどだった。ほとんど手をつけずにいると、隆仁がそれに気が付いたらしく、
「食欲ないの?」
 と、聞いてくるが、まともに返事する元気がない。
「ちょっと、眠れなくって。」
 言葉少なげに答える柚菜の表情が、さらに問いかけようとする彼に、ストップをかけた。
 父と母は、自分達の新婚旅行に心を奪われているようだ。あっという間に食事をすませると、
「後片付けは、柚菜お願い!」
 と、母は言って、二人して二階に上がって行った。
 バタバタと、二人の騒がしい足音が遠ざかると、キッチンは静まり返り、寝不足のおかげで頭痛までしてくる柚菜に、
「俺が後かたづけしておくから、休んだら?」
 と言ってくれる隆仁に、柚菜は
「ありがとう。そうさせてもらうわ。」
 と、弱々しげに答えると、コーヒーだけ飲んで二階に上がってゆくのだった。
(一晩中、エアコンをかけっぱなしにしていたせいもあるかも知れないわ。)
 だるい体を引きずって、二階に上がろうとして、脱衣所が目に入る。
(ちょっと、シャワーだけでも浴びようかなあ。)
 柚菜は思って、中に入り服を脱ぎ捨てると、浴室に入り、簡単にシャワーを浴びる。そして、さっと服を着ると、二階へ上がった。
 自分の部屋に入ると、窓を開けた。今度は暑くなるのを分かっていながら、エアコンをかけずに、柚菜はベットに横になると、そのまま睡魔が訪れて、眠る事ができるのだった。
 再び目が開いた頃には、太陽は空高く中空にあり、全身汗だくだ。けれども、朝のだるさは、すっかり取れて、爽快そのもので、
「ふぁあー。」
 と、軽くのびをすると、汗で湿った服を着替えようとして、
(もう一度、シャワーを浴びよう。)
 と、思い立つ。結構あのバスルームは、柚菜のお気に入りの場所になってしまったようで、汗を流して着替えると、さらに気分がよくなった。
 鼻歌まじりに髪を乾かし、脱衣所を出る。
 すると、喉が渇いていきているのに気が付くのだった。
(お茶でも飲もう。)
 思った柚菜はリビングに向かった。
 そして、中に入ろうとして、キッチンに隆仁と、門田さんがいるのに気付き、思わず二の足を踏んでしまったのだ。
 ドアごしに、こっそり覗くような感じになってしまったのだが、キッチンにいる二人のかもし出す雰囲気が、自分達がいる時と違っている感じがしたのである。
「ぼっちゃま。これをかき混ぜてくださいな。」
 言葉は相変わらずなのだが、門田さんが隆仁を見る視線が温かい。
「えぇー!めんどくせー。」
 口をとんがらせて言いながらも、隆仁は門田さんの言う通りに、ボールの中の何かを菜箸でかき混ぜてゆく。
「そうそう。あたたかいうちに混ぜないと、ダメですからね。ほら、もっと力をいれて!」
 一体何を作っているのか、結局門田さんが隆仁の手を取って混ぜてゆくのだ。
 隆仁はされるがままになっていて、彼の表情には、少し甘えの入ったような感情がまじった顔をしている。
(まるで、本当の親子みたいじゃない。)
 見てはいけないものを見てしまった感じがした。


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              白石かなな