MAIN

Novel 
「テーブルの上って・・。」
 と、始めは怒りの意味がわからないで戸惑う母を、父はもの凄い形相でにらみ、肩で息をしながら
「僕は、何度も『テーブルの上には物を置かないように。』と、注意してきてるんだけれど、一向に改善されないのは、どうゆう事なんだろう。と不思議に思ってるんだよ。」
 と、低い声でつぶやいてくるのである。
 リビングで、ぼんやりテレビを見ていた柚菜だって、何事だと思って、母の方にかけよったぐらいだった。
「…それは、便利だから・・。」
 つぶやく母の言葉を、奪うようにして、
「どこが便利なんだ。ご飯を食べる時は、いつも違う場所に置いたりしてるだろう?だったら始めから置かなければいいじゃないか。」
「…・確かにそうだけれど・・。」
「じゃあなんだい?僕にも納得できるような理由を述べてくれよ。」
 感情を抑えた父の声ほど、恐ろしいものはない。
 それ以前に、テーブルの上に物を置く事で、なぜそこまで怒るのかが、母は理解できないようだった。その時は、柚菜だってわからなかった。
 母が戸惑った表情で、きちんと父に分かるように説明出来ないでいると、父はその時点で、母の意見は聞くにあたらないと判断したらしい。
 もじもじしている母を見て、父はさらに怒りのボルテージが上がってゆき、
「それに、なんだ。君はちょっとした書類を溜め込んで、散らかしたままにするのが趣味なのかい?」
 と、父は戸棚の上に山積みになりかけているクレジットカードの請求書や、ダイレクトメールの束を指差して言い募る。言いながらも、さらにいろいろ思い出してくるのか、
「それと、引越ししてから、一ヶ月にもなるのに、二階の納屋にある荷物がそのままになっているのはどうしたわけなんだい?いつになったら整理するんだろうと、ずっと思っているんだが。」
「あっ、あれは、そのうちしようと思っていたの。でも、ちょっとずつ整理はしてるのよ。ねえ柚菜。それに、毎日の庭の手入れとか、家の用事とか、そっちの方に気をとられてしまって・・。」
「庭の手入れと、家の用事に一日中かけずり回っているわけじゃないだろう。
 ちょっとずつ。…って言ったって、たいしてないじゃないか。一度にすればいい。
 どれだけ時間をかければすむんだ。」
 いったん怒りの炎を点火してしまうと、どんどん油が注ぎこまれて、手をつけられなくなる。一言言い返すと、さらにヒートアップする。だんだんと、声を荒げて怒る父は別人のようだった。
 そして父は、この際溜め込んできたイライラを、一気に吐き出してしまおうと思ったようだった。
「それになんだ。君達親子は、だれもいない部屋の電気をつけたままにして…。普通消すだろう?なぜなんだ。信じられないぞ。」
 柚菜は、言われてみて改めて、部屋を出る時、自分達には電気を消す習慣がない事に、思い当たる。気が付いた時には、消すようにしているのだが、うっかり忘れている時が多々あったのは事実だった。
(お父さん、そんな所までチェックしていたんだ・・。)
 父のわりと細かい性格に、ギョッとなる柚菜の側で、母が必死に説明をしている。
「それは、ずっと母子家庭だったから、無用心じゃない。電気を付けておく習慣がついちゃった…。」
「この家は、母子家庭じゃないだろう。電気を付けておく必要はないはずだ。」
 と言った父の一言で、母は黙り込んでしまった。
 そんな母を見て、父はつくづくうんざりとした顔で、ため息をつき、
「結婚早々、こんな事で言い争っているようじゃ、この先思いやられるね。お互い別の人生を歩んだほうがいいんじゃないか?」
 と言ってくるのだ。
(今、お父さん何を言ったの?)
 一瞬意味がわからなかった柚菜が顔を上げると、母も同意見らしい。
 ボー然とした表情で、父を見つめる母に、父は冷たい視線を送り、
「わ・か・れ・た・ほ・う・が・い・い。かも知れないなって言ってるんだよ。」


                               next
Skip to top