白い家
【
かなしいゆめのあと
】
The theme of this story is moral harassment
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Novel <第四章>
けれども柚菜は、それをまた元の場所に戻す事を、ためらってしまったのだ。
このDVDを見てしまうと、もう後戻り出来ないかもしれないという、確信に近い予感があるのにだ。
柚菜の体はDVDを持ったまま、クローゼットの中から出てきてしまっていた。
部屋を横切り、DVDレコーダーのある居間まで降りてゆき、そのままセットする。
DVDレコーダーはすぐさま中を読み取り、間もなくして、ある映像が映し出されていた。
女の人が一人、画面の正面に座っている。
前の奥さんだ。
一瞬、別人かと思うくらい、面やつれしていた。
けれど、黒目の多い目と、ちいさな唇。全体に小作りな体つきは、彼女そのものなのだが、げっそり痩せこけている。
異様な光を放った瞳が、ゾッとさせるものがあった。
「アキ。このDVDを見てるってことは、私はもう、死んでいるんだろうね。
先に言っておくわね。
ごめんなさい。奈々のこと。あの子の死は私に責任があります。
あの時、どうして体が動かなかったんだろう。どうしてかばいきれなかったんだろう・・。車に轢かれた時、奈々はとても痛かったはず。
なぜ、私はまだ生きてるんだろう。
なぜ、奈々が死んで、私が生きてるんだろう・・。」
ここで、彼女は息をとめ、ふたたび口を開く。
「これは遺書です。
…・ずっと思っていた事があるの。
アキには、もっとふさわしい人がいるんじゃないかって、ずっと思っていたの。
あなたに迷惑ばかりかけて、不幸にしてゆく私って、アキにとって何なんだろうって・・。
今度こそ、あなたを自由にしてあげる。
健康で、すばらしい女性を、妻にしてね・・。」
彼女は言って、据わったままの瞳の前に、タオルを出し、クルクルと巻くと、ふいに顔をだした隆仁の首にまきつけるのである。
きょとんと、母を見上げる隆仁。
「隆仁も一緒に逝こうね。ママも一緒だから、怖くないから・・。」
言いながら、彼女はググッと力をこめるのだ。
体を硬直させ、痙攣をおこし、ぐったりとなる隆仁。
(狂っている!)
その続きを、柚菜は見る事ができなかった。
ストップを押し、画面が暗くなっても、動悸が治まらず、しばらくその場でジッとしていることしかできなかった。
そこで、ハタと思い当たる。
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白石かなな