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Novel 
 白い家での生活は、さらに辛いものになった。
 あちらこちらに、前の奥さんのイメージが付きまとってくるのだ。
 自殺した彼女の念が、まだ残っている感じをうけて、家自体がどんよりと翳っているようにまで見えてしまうのである。
(あんなもの、見なきゃよかった。)
 と、何回も、心の中でつぶやくのだった。
 だからといって、家の用事はしなければならない。体を動かしているうちは、気もまぎれた。けれど、用事の合間に、ちょっとした休憩を取ったりしたら、ダメだった。
 そこかしこに、かつては元気に走り回っていた子供達や、前の奥さんの幻影を、見てしまうのである。
 柚菜はそのたびに頭を振って、その光景を打ち消さなければならなかった。
 そんなある日、母が少し体の調子が悪いというので、家中に掃除機をかけていると、隆仁の部屋のドアが少し開いている。
(あれ?今日は外に出かけてる日じゃなかったっけ。)
 と、思い、ドアにノックをしてから、
「隆仁?いるの?」
 と、声をかけるのだが、返事がない。ノックしたために、ドアがさらに開いて、中の様子が見えた。
 隆仁の部屋は、野乃村家にふさわしくないくらいに、散らかっている。というよりも、本やソフトが山積みになって、散らかっている感じを受けるのである。
 この部屋の中だけは、整理整頓しないでいい。という野乃村家のありようも、妙な感じを受けるのだが、彼の頭が言いぶん,その件では免除となっているのかもしれない。
(ついでに掃除機かけておこうか。)
 隆仁がいないのを確認してから、柚菜は掃除機をかけ始める。
 いつもは、自分の部屋の掃除は、自分ですることになっているので、隆仁の部屋までは、掃除する事はなかったのだけれど、ちょっとした善意のつもりだった。
 隆仁の部屋は、いつ掃除したの?と思うくらいに、埃がたまっていて、よくこんな所にいられるなあ。と逆に思うほどだ。
 柚菜は掃除機を手放し、はたきをもってくると、ハタハタと叩きだすのだった。
 そして、はたきがパソコンに当たった時、いきなり画面が明るくなり、メインの画面が現れるのだから、びっくりしてしまった。
 スタンバイの状態にしてあったらしい。
 ちょっとの間、パソコンを見ていた柚菜なのだが、再びはたきを手に持つと、あちこちを叩いて、埃をだしてゆく。
(それにしても、凄いほこり。)
 柚菜は顔をしかめながらも、はたき終えると、掃除機をかけ始める。ブイーンと、モーター音を鳴らしながら、埃を吸い取って行くと、少しはすっきりする。
 掃除機をかけながら、先ほど電源が入ったパソコンの画面が目に入る。一瞬見たものが信じられなかった。
 (?)
 と、首をかしげて、画面に見入ると…。
 画面はパソコンを触らなかったせいで、スクリーンセイバーになっていた。
 その映像は…。
 画面に映っているのは、隆仁と同じくらいの少年の顔だった。
 次々と、画像が変わるように設定してあるので、刻々と変化してゆく画像がリアルに映し出されている。 
 はじめは、眠っているようにも見える顔色だった。
 けれども、次の画面では、生きているのであれば、ありえないくらいのどす黒い顔色に変化するのだ。
 その次は、元の顔が判別できないくらいに、パンパンに腫れ上がった顔が映った。
 その次は、顔と同じくらいに腫れた体。
 身にまとっている服が、張り裂けんばかりだ。
 中から蛆がわいていた。元は人間であったはずのそれを、食い荒らしてゆく画面は、執拗なくらいだった。
 そして、終焉。
 森のような、うっそうとした茂みに横たわっているそれは、白い骨と化し、静寂ともとれる一シーンとして、そこに存在していた。
 再び、また眠っているような顔、。どす黒い顔色。
「!」 
 柚菜は、胃からこみ上げてくるのを、耐えれずに、隆仁の部屋を後にし、トイレに駆け込んだ。


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              白石かなな